「仕事よりプライベート優先」の会社員が増えたのはなぜか〈後編〉【宮台真司】
「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第4回〉
■蘊蓄に過剰に拘ることはイタイ
当時取材で立てた仮説を披露すると、背景はインターネット化による〈過剰な島宇宙化〉です。ネット上で行われているのは〈摩擦係数の低いコミュケーション〉です。マイナーな趣味の同好者をピンポイントで検索できるし、匿名性が〈表出の困難〉と〈尊厳の困難〉を無関連化してくれます。
〈表出の困難〉とは、相手の目を見られないとか赤面するとか手が震えるとか。〈尊厳の困難〉とは、小6にもなってウンコ漏らしたとか。後者については、福音書によれば、イエスも故郷では奇蹟を行なえなかったとあります(笑)。
ネットはこれら困難を回避させます。それゆえ〈摩擦係数の低いコミュニケーション〉になります。すると、ピンポイント検索の便宜もあって、〈過剰な島宇宙化〉が促進された上に縦割りとなり、人々は〈見たいものしか見ないコミュニケーション〉に淫(いん)しがちになります。
こうした〈過剰な島宇宙化〉は二重の不合理を招きます。第一に、ネットの小規模な島宇宙にハマるとオフラインの友達がますますいなくなる。第二に、島宇宙が多すぎると「二重の選択性」(ニクラス・ルーマン)の第一段階に負荷が掛かりすぎ、選択の全体が難しくなります。
二重の選択性とは言語の概念的使用に関わるもので、「まず選択前提ないし選択地平を選択し、その上で項目を選択すること」を言います。「何聴こう?→ジャズ聴こう→マイルスを選ぼう」みたいな感じです。ところがジャンルが細分化すると「ジャズ聴こう」の段階で躓(つまず)きます。
こうした逆説への気づきが90年代後半に拡がった結果、97年を境にオタク的コミュニケーションが〈蘊蓄競争〉から〈シェアの戯れ〉にシフトします。並行して、複数の島宇宙を股に掛ける〈多重帰属化〉と、相手次第で島宇宙を切り替えする〈社交ツール化〉が生じました。
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CONTENTS
はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か
第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか
——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観
◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと
◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは
◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは
◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ
◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは
第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは
———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪
◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか
◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは
◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは
◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!?
◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか
◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について
◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは
第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか
———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ
◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか
◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは
◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか
◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは
◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは
◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か
第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために
———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか
◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか
◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか
◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか
◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか
◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか
◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか
◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか
以上「目次」より
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